フィリピン幸福論
第 1回 踊り狂う人々 前編
第 2回 踊り狂う人々 後編
第 3回 日本人がフィリピン
     に填まる理由
第 4回 戦士と乙女
第 5回 異形に寛容な
     フィリピン
第 6回 貧しいがゆえ
     豊かなるフィリピン
第 7回 激安暮しの幸福
第 8回 子供が溢れる
第 9回 MLによる新しい
     日本人ネットワーク
第10回 「お客さん」をやっ
      ていませんか?
第11回 マニラで遊べ!
第12回 Pの悲劇
フィリピン恋愛論
第 1回 シングルマザーに
     愛を・・・。
第 2回 駐在員 VS
     カラオケGIRLS
第 3回 Japan meets
     Philippines!
第 4回 日本女性 VS
     フィリピーナ
第 5回 健気なり!
     フィリピーナ!
第 6回 確信犯的悪女系
     フィリピーナ
第 7回 眼力を磨け!1
第 8回 眼力を磨け!2
第 9回 省令改正に関する
     緊急提言!
第10回 眼力を磨け!3
第11回 眼力を磨け!4
第12回 連載の総まとめ
  
著者 :     三四郎
撮影 :Shigeru Ueki
第2回 〜駐在員 vs.カラオケGIRLS〜
 メトロマニラには約50軒(マニラ生活電話帳より)の日本人向け「カラオケ」がある。この「カラオケ」とは、狭い個室で友達と歌いまくるカラオケBOXとは違い、女性を指名して横に座らせるフィリピンパブと同じ形式である。フィリピーナGRO(ゲスト・リレーション・オフィサーの略、つまりはホステス)が100人以上在籍する豪勢な大箱から、10人に満たない場末の小さな店までピンからキリまでマニラの夜を彩っている。

 カラオケが集中している地区は、マカティ市のパサイロード沿いおよびマカティ・シネマ・スクエア近辺。マニラ市ではエルミタのマビニ通り沿いに軒を並べている。店に入るとイラッシャイマセーの元気な挨拶で出迎えられ、席に通される。店の中央にはステージがあり、お客がGROと一緒に日本語のカラオケを歌っている。システムは1時間半か2時間のセットで約700ペソ、指名200ペソ、GROへのドリンクが250ペソ、E-VAT(消費税)10%、S.C(サービス・チャージ、つまりチップ)が10%。合計1,500ペソ弱(3,000円)ほどである。

 席に座るとママが来てシステムを説明し(お客がその店に初めての場合)、GROを指名するように促される。お客はその時点で指名の無い数十人のGROから気に入った子を選ぶという按配。その後はGROと話をしたり、カラオケを歌ったり、お酒を飲んだり、好きにすればよい。GROの多くはプロモーションに所属し、日本で働くために準備をしている。昼間、ダンスや歌の練習をする傍ら、夜は日本人相手の店で働いている。日本語もまだあまり出来ず、仕事の厳しさもよく分かっていない子が多い。逆に言えば、素のフィリピーナに会えるということだ。

他に同伴というサービスがある。開店前に店の外でGROと待ち合わせ、食事をしたり、買い物をしたり、映画を見たりできる。開店後の夜9時ごろまでに、店に戻ればよい。同伴には普通、GROが二人組で来る。自分の指名しているGROと、その彼女と仲の良いGROである。このような付き添いをタガログでAlalay(アラライ)、英語ではChaperon(チャペロン)と言う。フィリピンらしいスタイルである。お客にとっては非常に目障りな存在だが、それが文化なのだからしょうがない。治安が悪く、警察も信頼できないフィリピンでは、若い女性が初めてのデートに1人で来ることはありえない。お客としては、「将を射んとするならば、まず馬を射よ」であり、チャペロンを味方にしてしまうのが肝要である。

 マニラのカラオケは基本的に自由恋愛である。お金を払えば何でもできるということでは無い。GRO達には選択権、拒否権があると考えていたほうがよい。彼女達もお金を稼ぎたいのはやまやまなのだが、やはりお客の人間性も見ている。彼女達を楽しませ、スマートに接したほうが良い結果がでるだろう。

 日本人向けカラオケの客層は駐在員、観光客、そして現地在住の日本人である。マカティ市には数百社もの日系企業のオフィスがあり、数千人の日本人駐在員が住んでいると思われる。彼ら駐在員が主なターゲットなのである。金曜日の夜ともなればパサイロードの路上には駐在員の車が列をなして停まり、ドライバーがたむろっている。大使館やJICA関連の駐在員の行き着けの店もある。店の外にはディプロマット・ナンバーの車が並んでいる。

 マニラで働く駐在員は「特権階級」といってもいい。昨今の不景気によるリストラや経費削減で待遇も悪くなったとはいえ、マカティの高級コンドミニアムに住み、運転手付きの車に乗り、海外手当てをもらって働いている。お酒の好きな人は毎晩飲みに行き、土日はラグナやカビテでゴルフをする。日本の満員電車での通勤地獄に比べたら天と地の差である。いわば「万能感」を感じつつ仕事に遊びに打ち込める。その上、単身赴任とくればたがが外れるのが人情である。

 しかし、駐在生活もいいことばかりではない。中には単身赴任で10年もマニラで働いている駐在員もいる。異国での生活に疲れ、寂しさを癒すためにカラオケのGROに深入りしてしまう。本人がマニラで浮気しているだけならまだ良いかもしれない。

日本に帰国しても、それまで残していた奥さんも別の男と浮気していたり、子供達ももはや自分には懐かないなどと、帰る場所が無くなってしまうこともありえる。家庭は崩壊したが別れることも出来ず、ODAがらみの仕事でフィリピンを初めとするアジアの途上国を巡る日々。そんな寂しい日本人には、癒し系GROの存在が不可欠なのかもしれない。

 あるいは、まだ40歳過ぎなのに脳梗塞で倒れたという駐在員の話を聞いた。平日はハードに仕事をし、夜は何軒もカラオケをはしごして大酒を飲み、土日はゴルフ。どんなに疲れても、飲みすぎても、ドライバーが車を運転してくれるのでとことん動けてしまう。単身赴任なので健康を気遣う人もそばにいない。でも、仕事がはねてから病院を訪ね、入院している駐在員を朝まで世話するGROもいる。決して恋人関係ではない。お客とGROの関係である。そんな彼女達の行動に心打たれる駐在員がいても不思議ではない。

 こんな話も聞いたことがある。ある日系建設会社がフィリピンで公共事業を施工したが、フィリピン側発注企業が工事代金を全額支払わないので裁判を起こした。その工事の責任者として裁判を毎回傍聴するために日本から通う元駐在員がいた。遅々として進まない裁判を傍聴した夜にカラオケに通い、誰にも言えない心の内を愚痴ってしまう気持ちは、・・・よくわかる。そんな深刻な話をGROは「フィリピンジン、ホントワルイナー!!」と笑い飛ばしてくれるのである。その元駐在員が思わず苦笑する顔が目に浮かぶ。

 そして、そんな彼らとGROたちの「愛の結末」がJFC(Japanese‐Filipino children、日比混血児)である。三四郎の住む5階建てコンドミニアムには約50室の部屋あるが、なんと10人以上のJFCが住んでいる。こんなにJFCが多いのは、マカティのカラオケが集中する地区から歩ける近さと家賃の安さが原因であろう。1ベッドルームが7千ペソ。日本人が月に2万ペソ(4万円)も送金すれば、JFC母子は生活ができる。先月号で書いたように、フィリピーナは妊娠したら堕胎しない。そのトラップに填まってしまった駐在員のお話は、またの機会に・・・。



第3回 〜Japan meets〜に続く!

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著者プロフィール

著者名 三四郎

フィリピン社会事情MLを運営。
マニラ現地サービスを展開中!
マニラ在住8年。

E-MAIL: nbf04352@nifty.com
URL: www.pmlc.net


撮影者 小俣慎也 (通称Vito Cruz)


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