フィリピン幸福論
第 1回 踊り狂う人々 前編
第 2回 踊り狂う人々 後編
第 3回 日本人がフィリピン
     に填まる理由
第 4回 戦士と乙女
第 5回 異形に寛容な
     フィリピン
第 6回 貧しいがゆえ
     豊かなるフィリピン
第 7回 激安暮しの幸福
第 8回 子供が溢れる
第 9回 MLによる新しい
     日本人ネットワーク
第10回 「お客さん」をやっ
      ていませんか?
第11回 マニラで遊べ!
第12回 Pの悲劇
フィリピン恋愛論
第 1回 シングルマザーに
     愛を・・・。
第 2回 駐在員 VS
     カラオケGIRLS
第 3回 Japan meets
     Philippines!
第 4回 日本女性 VS
     フィリピーナ
第 5回 健気なり!
     フィリピーナ!
第 6回 確信犯的悪女系
     フィリピーナ
第 7回 眼力を磨け!1
第 8回 眼力を磨け!2
第 9回 省令改正に関する
     緊急提言!
第10回 眼力を磨け!3
第11回 眼力を磨け!4
第12回 連載の総まとめ
  
著者 :   三四郎
撮影 : Vito Cruz
第12回 〜Pの悲劇〜
閑話休題。フィリピンの良い所を探すのも、そろそろネタが切れてきた。今月は番外編として、最近三四郎が経験したフィリピンらしい悲喜劇をご紹介する。

 某月某日。午前3時ごろマカティの下町にある自室のベッドの上で寝られずに本を読んでいた。暑いので開け放した窓の外から、「パチパチ・・・」という竹が焼けて爆ぜるような音と、夜中だというのに近所の人たちの騒ぎ声が聞こえてくる。火事かなと思いつつベランダに出て外を覗いてみると、案の定100メートルほど先で真っ赤な火の手が上がっている。道には火事の方向に駆けて行く人たちの姿が見える。

 手早く着替え、デジタルカメラを片手に外に出て現場に向かう。現場は四本ほど向こうの筋の木造民家だった。近づいていくと大きなたいまつのように天を焦がして勢いよく燃えている。消防車はまだ到着していない。辺りは数百人もの野次馬でごった返している。乾季の終わりごろで乾ききっていたのだろう。本当によく燃えている。このような火事の現場を見るのは初めてだった。

 不謹慎と思いながらも目立たぬようにデジカメで写真を撮った。火の勢いが強いのでフラッシュを焚く必要がない。20メートルくらい離れているのに熱気が伝わってくる。周りには身の回りの品を持ち出して両手に荷物を抱えた人が右往左往している。その中になんと以前別れた彼女の顔もあった。この辺に住んでいるとは知っていたが、今は日本で働いていると思っていた。両手に荷物を持ち、小脇に小さな扇風機を抱えていた。化粧を落とし、眉毛がなかった。周りを見渡すと同じような顔をした多くの若い女性が火事を見ていた。この地区はマカティの繁華街に近いので、カラオケに勤める女性が部屋を借りて住んでいるのだ。

 まもなく消防車が数台到着した。パサイからも漢字が書かれた消防車が来た。チャイニーズ系の消防団のようだ。フィリピンの消防士は水を掛ける前に金銭交渉をするという噂を聞いていたが、そのようなことはなさそうだった。消防士たちが水を掛け初めてもしばらく燃えていたが、勢いを失ったのを見届けて自室に戻った。マニラの下町の木造家屋が密集した地区では、何百世帯が焼け出される火事が時々ある。あまり死傷者は出ないようだが、この火事では12歳の女の子が逃げ遅れて亡くなったと聞いた。翌日、焼け跡の前を通ると、焼け出された家族が道にバランガイのテントを張り、暑い日差しの下で少女の葬式をしていた。

 某月某日。あるカラオケの女性とデートの約束をした。選挙当日と前日はLiquor banといってレストランなどでアルコール類の販売が禁止になるため、お店が臨時休業になるというのだ。これはチャンスとマニラからバスで3時間、ボートで1時間のところにあるビーチに行く約束をし、午前2時ごろ仕事の終わった彼女と連れ立ってブエンディア通りとタフト通りの角にあるバス乗り場に向かった。バスを待つ間、腹ごしらえをするためにWENDYユSでハンバーガーを食べた。

 窓の外は小雨が降っていた。ビサヤ地方に台風が来ているという話は聞いていたが、日本のような天気予報がないため高をくくっていた。しばらく様子を見ていると本格的な土砂降りになって来た。中学の英語で習った、まさに“Raining cats and dogs”である。目的地に行くには1時間近くバンカボートに乗らなければならない。以前、風が強かった時のボートの揺れを思い出し、彼女には残念ながら中止にしようと告げた。

雨はますます激しく降ってくる。ブエンディア通りもうっすらと冠水している。彼女を店に待たせ、タクシーで自宅に戻って車を取ってくることに決めた。タクシーに乗り込みマカティの自宅に向かうと嫌な予感がしてきた。私の家の近所は洪水で有名なところである。不吉な予感は当たりフィリピン国鉄の線路を越えたところはもう冠水して海原のようになっている。タクシーの運転手はこれ以上先には進めないから車を降りてくれと言い出した。冗談ではない、取りあえずさっきの所まで戻ってくれと言うとしぶしぶ戻り始めた。

 悪いことに今度は戻ることも出来ない。ブエンディア通りがかなり冠水し、通行する車が車内に水が入ってくるのを恐れて引き返している。とうとう少し高くなっているガソリンスタンドで降ろされてしまった。通りには洪水が河のように流れ、まさに陸の孤島。待ちくたびれて痺れを切らした彼女がひっきりなしにTEXで状況を問いただしてくる。彼女の店の前はそれほど冠水していないようだ。しかし、私は陸の孤島から逃れることが出来ない。通りを走るタクシーが続々とガソリンスタンドに避難してくる。

 彼女は私が戻ってこないので苛立っている。こちらも打つ手が無いので腹が立つ。そこで彼女にタクシーを拾って迎えに来いといった。雨も小ぶりになってきたが、依然として水は引かない。ここは周りの水がどんどん流れ込んでくる低い場所のようである。そうしているうちに何台かのタクシーが冠水した通りに恐る恐る出て行く。私の住むバランガイの名を言うと、冗談ではないという顔をして乗車を拒否される。

 2時間ほどそのようなことを続けていただろうか、次第に夜も明けて徐々に明るくなってきた。そのころやっと彼女がタクシーでガソリンスタンドの前を通りかかった。ほっとして後部座席に乗り込む。運転手がガソリンを入れるというと、彼女が早くしろと居丈高に答えた。運転手がタガログ語で、嫌なら他のタクシーに乗ってくれと言い返す。なんと状況の読めない女だろうとそら恐ろしくなった。私の経験則からすると、この手の女と一緒にいるとろくなことがない。私はタクシーを降り、彼女に別れを告げた。彼女は憮然としてタクシーで去っていった。

 悪いことはまだ終わらなかった。午前6時ごろ車高の高いバスが走り始めたので、そのバスに乗って自宅近くまで行き、あとは歩いた。途中で冠水してきたのでそれ以上進めなくなった。ちょうど行き交った自転車の横に座席の付いたトライシクルのような乗り物と交渉して自宅を目指した。最後は人力である。自宅に近づくにつれ、水かさが増してきた。膝上くらいまであるだろうか。嘘だろう・・・と呟きながら近所の角を曲がった。私の車が水没していた。

 後日談。不幸中の幸いで車内に水が入ったが、エンジンなどは無事だった。完全に乾くまで生ゴミが腐ったような匂いがした。私が住んでいるコンドミニアムの家賃が安い理由が身に沁みてよくわかった。



フィリピン恋愛論 に続く!

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著者プロフィール

著者名 三四郎

フィリピン社会事情MLを運営。
マニラ現地サービスを展開中!
マニラ在住8年。

E-MAIL: nbf04352@nifty.com
URL: www.pmlc.net


撮影者 小俣慎也 (通称Vito Cruz)


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