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著者 : 三四郎
| 撮影 : Vito Cruz |
第一回 〜踊り狂う人々〜 前編 |
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フィリピンに住んでいる僕にとって、最高に幸せだと感じられる瞬間がある。
それは、フィリピン人の若者達が熱狂的に、そして人生で今が一番楽しい時かのように、弾けるような笑顔で踊るダンスを眺めている時だ。
マニラの歓楽街、エルミタに一軒の巨大なライブハウスがある。体育館のように大きな店で、毎夜、若いフィリピン人で大入り満員になる。
1階と2階をあわせて軽く1,000人くらいは入れるだろう。客層はごく一般の若者達だ。
バンドが演奏する大きなステージが、客席より2メートルほど高いところに設けてあり、そのステージの前に、何十人も踊れる細長いスペースがある。
今は事情があって中断しているが、昨年まで僕は、ある日本人の友人とそのライブハウスに毎週末繰り出していた時期があった。彼とは妙にウマが合い、タガログ語でいうところの、いわゆる「コンパレ」である。
そのライブハウスに集まるたくさんの若いピナの中に自分のタイプを探すため、僕らはちょうど灯りに群れる蛾を狙うヤモリのように地道に通っていたのである。
平日の夜は午前1時くらいまで、若者達は数人から十数人のグループで連れ立って飲みに来る。サンミゲル・ビールのバレル(樽型の容器)を一樽と、数品の料理(シシッグ、イカ焼き、手羽先のから揚げ、ピザ)を肴に、いつ終わるともなく陽気に騒いでいる。
バレルがおよそ450ペソ、料理が一品200ペソくらいだから、たとえば6人の仲間でバレル一樽と料理を二品注文したら、一人あたり150ペソ。
料金はあまり高くない。仲間の誕生日やお祝い事、仕事の息抜きで、皆で弾けるにはもってこいの店である。
午前1時を過ぎると、翌朝の学校や仕事があるのだろう、普通の若者は少なくなる。入れ替わって、メトロマニラ中のカラオケやバーで働いている夜の商売の綺麗どころが、仕事を終え、群れをなしてやってくる。
平日でも熱気があるのだが、休日の前夜ともなると、「堅気さん」と「綺麗どころ」、どちらの陣営も一歩も譲らず、明け方まで帰ろうとしない。
しかし、どんなに込んでいても、顔なじみの従業員にチップを効かしてある僕らは、いつもステージ前の最高の場所に陣取って、四方から送られてくるアイコンタクトをいなしつつ、今夜一緒に遊んでくれる「お友達」をゆっくりと探すのだ。
そうこうしているうちに次々とステージ上に登場するバンドは、聴き慣れたロックとバラードを織り交ぜて、競うようにノンストップで歌い上げる。一晩で二組から三組が、順番にライブを繰り広げるのである。
客を盛り上げる実力のあるバンドは、金曜や土曜の夜中、一番盛り上がる時間に出番が組まれる。毎週、同じ曜日同じ時間にその店に行けば、お気に入りのバンドを追っかけることが出来るのだ。人気があるのは、歌も下ネタも上手い三枚目バンドか、小柄ながらビートの聞いた声でガンガンに聴かせる美人ボーカルのバンドに二分される。
若者達は、そこに踊りに来ている。
バラードが数曲続いた後、バンドは必ずダンスミュージックを演奏する。
“ You wanna DANCE ??!! ”とボーカルが叫ぶ。
すると、満員の店内に” Yeaaaaaahhhhh !! “と甲高い歓声がこだまする!
その叫び声に大音量の前奏が重なって、調子のいいダンスミュージックが流れ出す。それが合図となって、それぞれのテーブルから若者達が一斉に立ち上がる。自分達のスペースを確保しようと、連れ立って早足で通路を抜け、踊り場に殺到する。
あっという間に若者で埋まり、肩がぶつかりあう。踊り場に入りきれなくて、通路で踊っている者もいる。バロン姿の従業員が、遠巻きに喧嘩や将棋倒しを警戒して配置に付く。
待ちに待った狂乱の「ダンス」が、ついに始まる。日常の鬱憤が爆発したかのように歓喜に満ちた表情で、何十人、いや、百人近くの若者が踊り狂う。日本人には逆立ちしてもマネが出来ない、リズムと一体になった動き。ココロのままに、カラダが動くままに踊りまくる。
世界で一番素晴らしい(と、友人は言う)脚と、スコーンと持ち上がったお尻を強調し、腰骨に引っ掛けるように履いたローウエストのスリムなジーンズ。おヘソと肩を露出し、胸を帯状に隠す「チューブ」と呼ばれるシャツ着たブラックビューティのピナ達。
彼女達を取り囲むように、まだ少年の顔つきが残るピノ達が、体をぶつけるようにして踊る。
“ Sige na !! Dance tayo ?! (ほら!踊ろうよ!) ”と横の「お友達」が僕を誘う。
どうしようか…。日本人である僕は、彼らフィリピン人の様には上手く踊れない。
第2回 踊り狂う人々 後編に続く!
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